一冊の本

取り調べは一冊の本だ。
被疑者はその本の主人公なのだ。
彼らは実に様々なストーリーを持っている。
しかし、本の中の主人公は本の中から出ることはできない。
こちらが本を開くことによって、初めて何かを語れるのだ。
彼らは、こちらに向かって涙を求めてくることがある。
怒りを焚きつけてくることもある。彼らは語りたがっている。
自分の物語を読んでほしいと願っている。
こちらは静かにページを捲っていけばいいのだ。
彼らは待っている。早く捲ってくれと待ちわびている。
こちらがページを捲らない限り、
彼らは何も語ることができないのだから。

(半落ち、横山秀夫)