見たものより見なかったもの。
会えた人より会えなかった人。
口に出せたことより出せなかったこと。
食べたものより、食べることのかなわなかったもの。
関係をもった人よりもたなかった人。
いった場所よりいくのを断念した場所。
手に入れたものより、どうしても手に入らなかったもの。
それらは空白としてではなく、
ある確固とした記憶として私のなかにある。
[+佐内正史]
(だれかのことを強く思ってみたかった、角田光代)
ああ、やれなかった、
ああ、手に入らなかった、
そういう記憶が、
強く残ってしまうのが人間。
それが、あきらめたくない、
っていう思いを作ることもある。