見つめても
見えないのなら
目をとじよ
(バカボンド、井上雄彦、原作:吉川英治)
介護に携わっていると、
面白いことがよく起こります。
うちの義母のことですが、
自分の部屋にいて、
目の前にティッシュ箱があるのに、
わざわざ台所に歩いてきて、
娘に「ティッシュは?」と
尋ねに来るのです。
そうか、と思えば、
自分の食事は食べ終えておきながら、
同じテーブルにある家族の皿に、
さっと箸をのばして、
自分のものでないものを口に入れる。
それで、あとは知らんぷり…
目が見えなくなってきて、
かわいそうだなぁと思いかけてれば、
「なんだ、見えてるじゃねぇか!」
という感じです。
そんなことが分かってくると、
いじわるをしたくなる私です。
大好物のお寿司を食べていると、
だいたい、こう尋ねてきます。
「もっと、食べたい」
目の前には、まだ数個残っているのに…
「まだ、あるよ。
食べたくないなら、
私が食べてもいいからね。」と、
私は言ってやるんです。
すると急に、目が働きだして、
寿司を手づかみして、
口に持っていくというわけ。
見えていないわけじゃないのです。
誰かが教えてくれる、
誰かが代わりに見てくれる、
誰かが助けてやってくれる、
という考え方に浸ってしまうと、
見えるものさえ見えなくなるのです。
目をとじると、そんな自分が
分かってくるのかもしれません。