時の物差し

時の物差しを、
短くも長くもするのは、
気の持ちようです。

(何もしない贅沢、ヴェロニック・ヴィエン)

誰かを待っている時の10分は、
誰かを待たせている時の10分より長い。

中学生の頃、自転車通学している最中に、
自転車カゴに止まった虫が気になり、
払いのけようとした。

不幸にも、それは、
けっこうな下り坂で、
それなりのスピードが出ていた時だった。

虫が気になっている間に、
道路の脇に自転車が寄ってしまったのだろう。
その道路脇にある砂利の上を進むタイヤは、
とても不安定に感じられ、
ブレーキをかけてしまったが最後、
タイヤがスリップを始めた。

その時の瞬間は、今でも覚えている。
タイヤがスッと滑り始め、
間もなくバランスを失った。
そして、自転車が倒れた瞬間に、
自分の身が投げ出され、前に倒れた状態で、
体が路面をすべっていった。

ただ実際には、そんなに長い間、
すべったわけではなかっただろうが、
すぐ目の前を、道路の砂利が
映画のスロー再生のように、
通り過ぎていった。

意識を集中せざるを得なくなると、
一瞬一瞬が濃いものになるんだろうな。


モモ(ミヒャエル・エンデ)

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